密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

捨てられる銀行2 非産運用

著:橋本 卓典

 

 同じ著者の「捨てられる銀行」が面白かったので、こちらも手にとった。ただし、こちらは資産運用の話がメインで、「銀行」に限った内容ではない。自分たちの儲けになる都合のよい高い手数料の投信の回転売買を勧めたり、ラップ口座で大儲けしてきた大手証券会社や金融機関系列の投資運用会社、高い手数料の貯蓄性の保険を売ってきた保険会社も含めての話になる。

 前著以上に、森信親長官の名前と、「フィデューシャリー・デューティ」が連呼される。実際、わが国の国民資産の内訳は欧米とは大きく異なっていて、ほとんど利息のつかない預貯金の比率が大きく、これがここ20年来順調に個人資産の総額が伸びてきたアメリカなどとの差が開く大きな要因になっていることは本書でも説明されている通りである。そして、それは国民の慎重な気質もさることながら、長期の安定的な資産運用向きの手数料が大幅に割く透明性が高く利益相反が無くガバナンスの利いた金融商品の供給が不十分であったことと関係がないとはいえない。森長官の意図がこの点を根本から是正し、フィデューシャリー・デューティの掛け声の元に、透明性のある商品を割安な手数料で提供することで、国民の資産を健全に運用し成長させることを後押しすることにあることは既に知られている。

 アメリカのバンガードをはじめ、国内外の金融機関のキーパーソンに直接取材している。特に、バンガードがどういう会社なのか本書で初めて詳しく知ったので、個人的には有意義だった。アメリカやイギリスの国民の資産運用がどのような経緯で現在のようなものになったのかもきちんと説明されている。ただ、一部そのようなレビューを書いている人がいるが、国内の大手金融機関に関していうなら、インタビューを受けてくれた会社の人たちをヒーローのように書いているようにも読めなくはなく、それらの会社が今までどのような商品をどのような手法で販売してきたかを考えると、若干割り引いて読んだ方がいいかもしれない。

 個人向けの記述はそれほど多いわけではないが、資産形成を志す初心者の心構えとして以下の6点を挙げている。
・手数料の相対的な安さ
・税制優遇制度の活用
・商品、サービスが初心者にも分かりやすいか
・変化に対応し、長期運用できる商品か
・為替リスクに対応できているか
・運用会社、販売会社からフィデューシャリーを感じられるか

 書きぶりは固い。しかし、具体的で、説得力がある。強い意気込みとともに、丁寧な取材に基づいて構成されており、内容も豊富で、意図も明確である。いろいろ考えさせられた。

 

目次

序章 「売られるあなた」 銀行、証券、生保に奪われ続けるあなたの金融資産
第1章 動き出した資産運用改革
第2章 ニッポンのヒサンな資産運用
第3章 フィデューシャリー・デューティとは何か
第4章 年金制度の変化と資産運用改革
第5章 改革の挑戦者から何を学ぶか
終章 「売られないあなた」になるために

 

新書、288ページ、講談社 、2017/4/19

捨てられる銀行2 非産運用 (講談社現代新書)

捨てられる銀行2 非産運用 (講談社現代新書)

  • 作者: 橋本卓
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/19
  • メディア: 新書