密林の図書室

日々読んでいる本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介のブックレビューのブログです。人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考え、このブログを立ち上げました。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

学校って何だろう―教育の社会学入門

著:苅谷 剛彦

 

 「教育の社会学入門」という副題の方が、この本の中身をよく表しているかもしれない。中学生を念頭に書かれているが、教育に多少なりとも関心のある全ての人にとって一読のある内容になっている。このような問題については答えはひとつではないので、各自がしっかり考えてみることが重要とした上で、そのために必要な材料として、著者なりの考察結果や見聞を披露している。以下の8つのテーマについて論じられている。

  1. どうして勉強するの?:答えはひとつではない。また、実は今の教室の形態は一人の先生が多数の生徒を教えるのに効率的な仕組みとして発展したもの。
  2. 試験の秘密:能力は能力の基準をどう考えるかで変わってくる。ただし、一定の時間内で発揮される能力が重視されるのは社会の特徴を反映している面がある。
  3. 校則はなぜあるの?:「正しい行動」かどうかよりも「正しい態度」を見るための物差しである。そして、少人数の大人が多数の子どもの集団を効率良く管理していくために必要なもの。実は多くの大人は、中学時代の外見と立派な大人になるかどうかは直接関係無いと知っている。
  4. 教科書って何だろう:内容を統一することで、地方や先生によるバラつきを防いだ。しかし、近年は日本が多様化に向かう一方で、元々ばらばらだったイギリスは画一化に向かった。社会の考え方を反映してそうなっている。
  5. 隠れたカリキュラム:学校は集団の場。授業以外にも集団行動をとるのに必要ないろいろな要素を学ぶようにできている。だから秩序を重んじる。たまにはその前提を疑ってみることも必要かもしれない。
  6. 先生の世界:勉強以外の指導も多くの先生は仕事だと思っている。しかし、年々社会が子どもの成長に関する役割分担をしなくなり先生の負担がずいぶん増えた。アメリカでは授業を教える先生と生徒指導の先生は別。
  7. 生徒の世界:「ひとりひとり」の原則と「みんないっしょ」の原則を学校の中でどうバランスよくおさめてゆくかがポイント。
  8. 学校と社会のつながり:どんな家庭に生まれるかで教育に差が出る傾向がある。そして日本は世界では恵まれた国。その点に気付き、恵まれた人ほど「自分で選べない責任」について考えてみよう。


 この本が特徴的なのは、これら全ての問題を学校という閉じた世界の中で考えるのではなく、「世の中」及び「日本」という社会の仕組みや構造の中でとらえている点だろう。つまり、教育の問題の答えがひとつではなくいろいろな意見が出るのは、それが社会と密接につながったものであり、社会自体も変化するものだからだ、という見方を具体的に教えてくれる。少し古いところもあるが、いろいろ考えさせる内容である。

 

文庫、248ページ、筑摩書房、2005/12/1

 

学校って何だろう―教育の社会学入門 (ちくま文庫)

学校って何だろう―教育の社会学入門 (ちくま文庫)

 

 

学力と階層

著:苅谷 剛彦

 

「教育が果たすべき役割はますます重要で複雑になる。にもかかわらず、教育に割ける資源は減ってゆく。教育の担い手の質や量の確保の問題も深刻化していくだろう。かつてのような国による統制の強いしくみではうまくいかない。とはいえ、むやみな規制緩和や分権化が問題を解説できるという見通しも楽観的すぎる」。(本書より)


 2008年に発売された本の文庫化になる。著者は教育問題に詳しい研究者。様々なデータやアンケート分析に基づく主張を行っているのが特徴。特に、重回帰分析を用いて、家庭環境と学力及び学習習慣の間に大きな関係があることを指摘し、特に所得階層や生活習慣と学力の間の相関関係をはっきりと明らかにしているところは説得力がある。

 知識社会の到来によって、学びかたを学ぶことが重要。自分探しが大衆化して教育の世界で一般化したことによる弊害。また、苦しい教育予算の中でのやりくりの問題。重くなる現場の負担。教員高齢化と大量退職によって発生する退職金や新規教員募集に潜む懸念。一面的な世間の批判に振り回される教育界。予算はなく時間も限られているのに、教育への要求は増え、新自由主義新保守主義の影響を受けて国の教育方針も揺れ動く。

 少し古い本であり、データは既に昔のものだし、その後35人学級や高校無償化、ゆとり教育見直しが行なわれた点についても本文には反映されていない。しかし、だからこそ、かえって、日本の教育を巡る問題は本質的には何も解決されていないことがわかる。


 尚、兼子仁という人との対話が納められている。苅谷氏はうまく流しながら持論を丁寧に説明するように運んでいるが、この兼子という人の主張の根拠と論理的な組み立ての方はよくわからなかった。それから、あとがきを内田樹が書いており、ひところ流行った「下流社会」という本は、苅谷氏に触発されて書いたと述べられている。

 

文庫、344ページ、朝日新聞出版、2012/8/7

 

学力と階層 (朝日文庫)

学力と階層 (朝日文庫)

 

オックスフォードからの警鐘 - グローバル化時代の大学論

著:苅谷 剛彦

 

 日本の大学のグローバル化政策に対する方向性について考察し、同時にオックスフォード大学をはじめとする欧米の大学との違いについても焦点を当てて、グローバル化が叫ばれている時代の大学の在り方について著者の見解を述べたものである。基本的に、日本の学生の6割程度を占める人文学系学科が対象になっている。

 オックスフォード大学は教育・研究面での国家からの独立性が高い。現代的な「役立つ教育」についての期待は専門職教育を大学院が提供することによって応えている。そもそも、欧米の大学は、講義中心の日本の大学とは違い、大量の読み書きとそれに基づく議論によって、学生たちに高い負荷を与えて批判的思考能力も身に着けさせることを重視している。

 英語が国際語として存在感を高める中で、英語で高等教育を終えた人はグローバル人材として国境を越えた高いニーズがあるため、英米の一流の大学は外国人留学生が多くいる。特にイギリスでは費用を差し引いた経費として100億ポンド以上の外貨をもたらす収益源になっている。そして、イギリスの有力メディアが発信する世界大学ランキングは、イギリスの大学のブランド力を高め、大学のグローバル化競争の有力なツールになっている。

 日本でも、産業界の強い要請を背景に、大学のグローバル化を進めようという動きがある。ただし、国の教育再生実行会議の「これからの大学教育等の在り方について」と題された「第三次提言」(2013年5月28日)を中心にみていくと、国際ランキングで100位以内に10校が入ることを目指す、英語での授業を10年で5割超、卒業までに半数の学生に海外経験をさせる、外国人留学生2割などの目標がある一方で、日本的な「等」で水増しされている部分もあると指摘されている。

 また、不十分な語学力のまま無理に外国語での授業を増やせば質的低下を招くと同時に、今まで日本語の壁によって外からは見えにくかった部分が露わになる可能性もあるとされている。日本の大学の問題は硬直的な企業の雇用システムをはじめとした社会的な要因も背景にあるという指摘もされている。

 要するに、グローバル化に対応しようともがくことで日本の大学が自ら混迷の度を深めているという構図があり、国の方針がその混乱に一役買っていると著者は主張している。また、日本特有の事情として「追いつき型」近代化とそこからの脱却ということがここに絡んできているという。

 ではどうすればいいかということについては、結局は、日本の大学が知の共同体としての強みと弱みを自律的にとらえなおして、グローバル競争ということよりも自分たちの内部の参照点に照らしてどのような多様性と実現手段が求められているかを探っていくしかないと述べられている。

 今までの大学のグローバル化論に置き換わるほど具体的なレベルにまで落とし込まれているわけではないし、蓄積した日本という経験を生かせば人文社会系の学問は世界に通用するはずだという主張の「蓄積した日本という経験」がどのようなものを指すのかも具体例が一切ない。ただ、日本の大学のグローバル化について考える上で、ヒントになる視点は含まれている。特に、和製グローバル化の問題については考えさせられる。

 

新書、229ページ、中央公論新社、2017/7/6

 

 

 

 
 

教えてみた「米国トップ校」

著:佐藤 仁

「『好きか』という問いには、それぞれに好きなところがあって何とも言えないが、肩を持ちたいと思うのは東大生の方だ。それは東大が国際的な知名度や財源などの点でプリンストンに負けているからである」(本書より)


 米国の名門中の名門であるプリンストン大学で4年間教壇に立ってきた客員教授が、米国の一流大学のすごさと課題について、東大と比較しながら書いた本。実際にプリンストン大学で教える立場になって肌で感じたことや知ったことに基づいて書かれてあるのが特徴である。

 米国の一流大学では、ノーベル賞級の有名教授に出くわすことがあるし、キャンパスは広く風格がある。多額の寄付に支えられ財源は豊か。できる生徒はどこか余裕があって「高性能のポルシェが時速40キロくらいでゆっくり走っている感じ」。多様であることを善しとする考え方に基づいたサポート体制は充実している。女子学生、女子教員ともに東大よりもはるかに女性の比率は高い。学生が教員を評価するシステムがある。少人数制で討論を重視する授業がある。教授が雑用に追われなくても良いように専門職員の体制が充実している。

 その一方で、いろいろ余裕があることの裏返しとして高コスト体質。授業料は非常に高く年間500万円ほどする。親のコネで「レガシー入学」してくる学生が14.7%もいる。入試の時点の成績さえよければ良い東大とは違って、米国一流校を目指す生徒は勉強ができるのは当然だが、さらに内申書ボランティアなど高校生活のあらゆることが大学入学の評価対象になるので高校時代から気を抜けない。コマ数は少ないが、厳しい課題の圧力に常にさらされていて勉強時間も長い。特に成績の2層目の学生は成績至上主義に走りがち。学生と教授の距離は意外に遠い。一流の教授は大金と好待遇で奪い合いになっている。

 どちらが良いかということは単純には言えないくらい、そもそも大学の考え方やありかたが違う、という感じである。また、少ない予算と雑用に振り回されながら日本の大学の先生はよくやっているという見方もできる。入学試験の点数しか問われない東大の方が個性的な学生が集まっているという著者の意見は、一理あるかもしれない。

 全体的には、東大びいき感が結構あるが、両校の比較という形をとることで米国の一流校と日本の一流校が具体的になにがどう違うのか、ということはわかりやすくなっている。また、その比較に基づき、東大はここは見習うべき、ということも書かれている。

 読み終えて、アメリカの大学と日本の大学は単純な比較が難しいくらい根本的なところが異なるということを理解しないで、アメリカの大学を見習え、などと簡単に言うべきではないし、そういう意見を見聞きしても安易に迎合すべきではないな、とは思った。

 

新書、256ページ、KADOKAWA、2017/9/8

 

教えてみた「米国トップ校」 (角川新書)

教えてみた「米国トップ校」 (角川新書)

  • 作者: 佐藤仁
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: 新書

 

 

いちばん親切な 西洋美術史

著:池上英洋、川口清香、荒井咲紀

 

 西洋美術の歴史を時代や特徴ごとに紹介した本。テーマごとに見開きになっている。掲載作品が多く、ビジュアル中心の構成。オールカラーで印刷も良好。

 

 また、単行本サイズでありながら少し横が長くなっており、このおかげで作品の写真の収まりがよく、見やすくなっている。美術の分野の本なのだから、まず、見て特徴がわかる、見て良さがわかるというのはとても大切なことであり、その点でよく配慮されていると思う。222ページとそれなりに分量もある。

 

 解説文も悪くない。美術の本の中には、著者の感情的な思い入れをたっぷり書いたものもあるのだが、この本にはそういう冗長さはない。そのかわり、文章量が多くないので、美術史にあまり詳しくない人でも読む上でそう負担にならない。また、それほど細かくはないものの、それぞれの様式や時代の作品のポイントをコンパクトに押さえたものになっている。

 

 取り上げられている時代も幅広い。奇をてらわず、オーソドックスに、古代エジプトメソポタミア、エーゲ文明、古代ギリシャ古代ローマと古い時代から順に丁寧に取り上げられていて、近現代の美術もちゃんと網羅されている。加えて、内容的には絵画が中心ではあるものの、彫刻や建築もカバーされている。

 

 「いちばん親切な」というのは売るためのタイトルづけという感じはあるが、内容と分量とオールカラー印刷であることと少し横長で見やすくなっている点を考慮すると悪くないし、お値段もけしてお高くはない。ただし、作品名や芸術家の名前は日本語表記だけで、英文あるいは原語表記はない。

 

単行本、224ページ、新星出版社、2016/7/15

いちばん親切な 西洋美術史

いちばん親切な 西洋美術史

  • 作者: 池上英洋,川口清香・荒井咲紀
  • 出版社/メーカー: 新星出版社
  • 発売日: 2016/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

 

 

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」

著:木村 泰司

 

 この本は、狙いはいいと思う。「美術史は欧米人にとって必須の教養であり、欧米社会における重要な共通認識、コミュニケーション・ツールです」「とくに、エグゼプティヴなポジションにいる方やその配偶者ほど、その地位に相応しい現地の方との社交からその必要性を痛感されているようです」というのは、けして大げさではないからだ。
 真摯にきちんと書かれてある。本来、美術が好きな人向けだった西洋美術史を、あえてビジネスマンの教養であるとして売り出しているところにこの本の目の付け所のよさがある。ただ、そのような本が一般書籍コーナーに並ぶことが少なかっただけのことで、実は西洋美術史に関する本は既に世の中にいくつも出ている。内容的に比較して、それら先行する本とこの本を比べて、これからこの本の購入を検討する人のために留意すべきであろう点を3つ挙げておく。

留意点1.最初の年表を除いて全部白黒印刷である
 近年の美術関連の本は全面的もしくは部分的にカラー印刷にしているものが多い。美術の分野の話なのだから、作品の写真についてはカラー印刷の方が好ましいのは当然である。しかし、この本は残念ながら最初の年表の1枚を除いて全て白黒印刷である。美術史の本であるにもかかわらず、原画を、わかりにくい白黒印刷だけで掲載されても、これではよくわからないだろう。文字の説明が重要なのはもちろんだが、だからといって作品そのものの写真の質を軽視してよいということにはならない。しかも、これはお安い本というわけはない。いまどき、これより廉価な新書や文庫でさえ、カラー印刷を採用している本は珍しくない。

留意点2.人名にも作品名にも、英名表記が無い
 美術展では、人名や作品名は英語併記が基本である。しかし、この本は、人名や作品名はカタカナだけで英語併記が全く見当たらない。たとえばゴッホは、「van Gogh」(ヴァン・ゴー)だから、カタカナ読みで「ゴッホ」と発音しても英米人には全く通じない。西洋美術史を扱っていて、しかも欧米人のエグゼクティヴの会話に加わるための教養としての西洋美術の重要性を強調しているにも関わらず、カタカナ表記しか書かない著者の姿勢には感心できない。世界に通じるビジネスエリートの教養としての重要性を説くのであれば、少なくとも最後の索引くらいには人物と作品名の英語表記をきちんと一覧記載すべきであるし、そのような手間は惜しむべきではない。

留意点3 印象派止まりでピカソすら登場しない
 本書で扱われているのは印象派までである。ピカソも、マティスも、クリムトも、ミロも、ダリも、キリコも、カンディンスキーも登場しない。ムンクシャガールも出てこない。現代のアメリカで人気のアンディ・ウォーホルも出てこない。たとえば、本書の終盤で言及されているMoMA現代アートの殿堂であることを考えても、あるいはピカソの「ゲルニカ」の社会的なインパクトの大きさを考えても、印象派以降の美術も西洋美術史として極めて重要な位置を占めているのだから、本書の扱いは片手落ちと言わざるをえない。ピカソすら無視しておいて、「世界のビジネスエリートが身につける教養」は言い過ぎだろう。

 ちなみに、このレビューを書いている時点でのこの本の定価は税抜きで1600円。実は、もう200円出すことで、西洋美術史の権威である池上英洋氏らの著によるオールカラー印刷の『いちばん親切な西洋美術史』(新星出版、下記リンク参照)が手に入る。そちらの方も英文表記は残念ながら欠けてはいるものの、カラーで、光沢紙で、印刷の質もよく、高コストパフォーマンスで、カラー写真による紹介作品数も多く、サイズも大きめで見やすく、扱っている年代も現代美術まできちんと含まれており、アール・ヌーボなども包含されている。歴史的な説明についても、少なくとも本書にけして劣っていないし、文章とビジュアルの両面から理解しやすくなっている。それに加え、レイアウトも見やすく読みやすく、わかりやすい。並べてみれば一目瞭然だが、西洋美術史の教養を身につけたいなら、客観的にみて、この本よりも、そちらの方が明かに優れている。

 この本は、ビジネスマンを狙ったというマーケティング的な視点が優れているだけのことで、美術関連の本を何冊も読んできた立場から言わせてもらうと、中身自体は他の西洋美術史の本と比べて特別優れているということはないように思われる。

 

単行本、256ページ、ダイヤモンド社、2017/10/5

 

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」

世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」

  • 作者: 木村泰司
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/10/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

▼私のおススメは、この本よりもこちらの方です(理由は上記レビュー参照)▼

いちばん親切な 西洋美術史

いちばん親切な 西洋美術史

  • 作者: 池上英洋,川口清香・荒井咲紀
  • 出版社/メーカー: 新星出版社
  • 発売日: 2016/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)